そんな装備で大丈夫か? 一番いいのを頼む
2010年10月15日


いつもガガガ文庫お読みいただきありがとうございます。編集部山田です。
ガガガ文庫10月刊の発売日が迫ってまいりました。
若干恒例(?)になりつつある企画ですが、『ラブコメ禁止ですの!2』を執筆された一柳凪先生と『時間商人 トキタの死期、カナタの思恋』を執筆された水市恵先生がブログ用に交換アンソロ短編を書きました!
まずは一柳先生が書いた『時間シャダイ』……じゃなかった、『時間商人』からアップしますね。
ではー。
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『ラブコメ禁止ですの!』の作者、一柳凪です。
水市先生からお誘いいただき、『時間商人』でショートストーリーを書かせていただくことになりました。
時間商人を営むトキタやカナタにも、きっと不老不死ならではの苦労があるじゃろう……なんて想像してみたところ、できあがったのがこのお話です。他の案として『不老不死も楽じゃない』『不老不死が多すぎる』『不老不死殺人事件』なども考えてみたものの、自主規制的にボツりました。
なお、コメディに仕上げるためにカナタがかなり変なキャラになってしまいましたが、『時間商人』本編ではこんな性格ではありませんので(のはず……ですよね?)、あしからず。
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『変わった客 A Strange Guest』(著/一柳凪)
『時間商人』シリーズ
(著/水市恵)より
時間商人の店には、いろいろと変わった客も訪れる。
「『健康』を極めたいんですよ」
その日、トキタの元を訪れたのは、まことに変わった客だった。
時間商人であるトキタは、都会のとあるビルの地下に店を構えている。
時間商人――それは不老不死を売る者。代価として支払われるのは、客の寿命十年間か、それに相当するだけの現金。
トキタはいつものように、応接のテーブルを挟んで客と相対していた。
そばには、助手のカナタが白猫のミケを抱いて控えている。ミケには、時間商人を必要としている人間の気配を感じとるセンサーのような能力がある。今日の客もまた、ミケが発見しカナタがこの店まで引っぱってきたのだった。
不老不死を求める者たちの願いはさまざまだ。人の数だけの理由が、想いがある。長らくこの商売を続けていれば、時には風変わりな客に当たりもする。
「健康を、極める……?」トキタは当惑気味に問い返した。
「そうです。僕は、自分の健康を害されるのが何より怖いんですよ」
目の前の客を、トキタはまじまじと観察する。
真田と名乗ったその男は、小心そうな口調とは裏腹に、筋肉みなぎる体つきをしていた。毎日鍛えこんでいるのだろう、その屈強な体格は、死という概念を跳ね返そうとでもしているかのようだ。
「失礼ですが、ずいぶん健康そうに見えますが……」
「ええ、僕は健康に命をかけてきました。この世の誰よりも健康になりたい……毎日、八時間の筋トレと四十キロのジョギングを欠かしたことはありません。もちろん食事にも気をつかっています。二十五キロの生肉と十九種の生野菜。食後にはプロテイン他のサプリメントも大量に摂取している。それに、健康グッズと名のつくものは必ず試してみることにしています」
「す、すごいですね……」そばで聞いていたカナタが呆れ顔になる。
「健康のためとあれば、このくらい簡単なことですよ。おかげで生まれてこの方、病気ひとつしたことがない。たとえダンプカーに跳ねられても死なない自信があります」
そこまで話したところで、真田は表情を曇らせた。
「でもね……、それでも完全には安心しきれないんですよ。いつ何が起きるか予測できないのが人生というものでしょう。万が一、億が一でも死の可能性が存在するなら、排除しないと気が済まないんです。僕は気が小さいものですから」
もちろん、いくら健康な人間であれ、不慮の死が降りかかる可能性は常に存在する。だからこそ、時間商人という商売が成り立っているわけだ。
「なんでも、時間商人と契約を結べば、契約期間の間はケガにも病気にも悩まされることがないって噂じゃないですか! それこそ、僕の理想の生活です」
「たしかに、この店では不老不死を扱っております。支払い方法は二通りございまして、お客様の寿命を十年間いただくか……」
契約書を差し出しながら、トキタは取引の内容について説明する。
「ええ、かまいませんよ。健康のためなら寿命くらい惜しくありませんとも!」
真田の言葉を聞いてカナタは、どこか本末転倒したような論理だという気がした。
「さっそく契約したいんですが、その前にひとつだけ確認しておきたいことがあります。あなたが本当に不老不死なのかどうかを、ね」
「ああ、疑問に思われるのは当然ですね。では……」
時間商人・及び不老不死というものに対して、客が懐疑的になるのは無理もないことだ。そんな客に対して、自分が不老不死であることを示すために、トキタはちょっとしたパフォーマンスを演じてみせることにしている。
トキタはカナタに命じて、一本のゴルフクラブを持ってこさせた。それを客の手に握らせる。
「そのゴルフクラブで、私の体を思いきり打ってください」
「へえ……?」真田は不思議そうな顔をした。「本当にいいんですか?」
「どうぞどうぞ」トキタは平然と促す。
「自慢じゃありませんが、僕の腕力はギネス級ですよ?」
「かまいませんとも」
「それじゃ、遠慮なく」
真田は手にしたゴルフクラブでフルスイングして、トキタの頭を殴りつけた。
「ナイスショット――!」
強烈な衝撃でトキタの体は壁に叩きつけられた。しかし、不老不死の身体ゆえに傷は一瞬にして回復する。
「これで信じていただけましたか?」
何事もなかったかのように立ちあがりながら、トキタは言った。
普通の客ならばここで驚きの声を上げるところだが、この真田という男は例外だった。
「いや、冗談はよしてください。それくらいなら僕だってできる」
「は……?」
「ゴルフクラブで殴られるくらい、僕だって平気ですよ。ダテに体を鍛えてるわけじゃない」
にこやかに笑いながら、真田は腕を折り曲げて見事な力こぶを作ってみせる。
トキタはしばし言葉に詰まったのち、「では、これではいかがでしょう」と一本のナイフを取り出した。鋭い刃先を自分の手に突き刺してみせるが、その傷は見る見るうちにふさがってしまう。
超自然の現象を目の当たりにしても、相手は、
「いやいや、僕の体だったらまずナイフが刺さりもしませんから」と、こともなげに言う。「やれやれ……不老不死って、その程度のものなんですか?」
普段は冷静沈着なトキタの顔に、かすかな苛立ちがよぎったのを、カナタは見逃さなかった。
「……これは手強そうですね」カナタは呟いた。この客を納得させるためには、もっと過激なパフォーマンスを行う必要がありそうだ。
「じゃあ先生、次はこの日本刀でお願いします!」新たな凶器を取り出して、二人の間に差し出す。
「待ちたまえ、カナタ。一体どこからそんな武器を……?」
「いざという時に備えて用意しておきました!」
えへん、と胸を張って答えるカナタ。
「先生なら、これくらいへっちゃらですよね!」
「あ、ああ……、もちろんだとも」トキタはぎこちなく頷いた。「時間商人たる者、日本刀の一本や二本、恐れるわけないじゃないか」
「それでもダメなら、このボウガンで……」
「このナタで……!」
「この手榴弾で!」
不気味なまでの用意周到さで次々と武器を取り出すカナタに、トキタはたじろぐ。
傷はすぐに治るといっても、痛覚はある。攻撃される瞬間の痛みは耐えがたいものだ。それでも、時間商人としての誇りにかけてトキタは、客に対し自分の不老不死を証明してみせねばならなかった。
「このライフルで!」
「このロケットランチャーで!」
「カチカチに凍った冷凍マグロで……!」
トキタにとってその日は、かつてなく長い一日に感じられた。
最終的に、真田を納得させ契約が結ばれるまでには、八時間余りを要した。
「……あの人、わざわざ契約する必要なんてなかったんじゃ?」
ずいぶんと長居した客が帰ってから、カナタはトキタに話しかけた。
「生身のままであそこまで不死に近づいた人間は、初めて見たよ」トキタは疲れ果てた顔に苦笑を浮かべた。
「とはいえ、さすがに老いまで遠ざけることはできなかっただろうから、契約は無意味というわけじゃない」
「でも、健康を願うあまり、結果として寿命は短くなっちゃったわけですよね……」
釈然としない様子のカナタに、トキタはこう続ける。
「時間商人がお客様に提供するのは不老不死という可能性であって、結果については僕の関与するところじゃない。あの人がそこまでして健康を手に入れたいと望むなら、こちらとしては何の問題もないよ」
「そういうものですかー」
「そういうものです」
筆舌に尽くしがたい苦しみと引き換えに完成した契約書を、大切にしまいこむ。それからトキタは、部屋中に散乱した武器の数々を眺めた。
「……それにしても、カナタ。君、武器商人に転職した方がいいんじゃないかね?」
「さりげなくリストラ宣言ですかっ!? 」
「本職顔負けの品揃えの良さだしね」
「うーん、武器商人も楽しそうですけど……」
トキタの冗談に、カナタは一瞬だけ本気で考えこむ。そして、にっこりと笑って首を振った。
「それでも私は、やっぱり時間商人の助手がいいです」
時間商人の店には、いろいろと変わった客も訪れる。
だからこそ面白いのだ――と、健康に取り憑かれた客の顔を思い出しながら、カナタはそう思った。
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