今日発売です!&樺薫インタビュー(2)

2007年08月17日

どもー。あついですね。ひたすらに。
ガガガ文庫、8月刊は今日発売です! 『グレンラガン』ノベライズはムックともども出足がとてもよいようですが(ありがとうございます!)、ほかの本も手にとってみていただけるとうれしいです。

では予告どおり樺氏のインタビュー後編をお送りします。
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――メイドさんが好きなのですか? また、好きな場合、どういったメイドさんがもっとも好ましいですか?
 
樺 好きですが、普通です。むしろ色黒長身眼鏡、とかが好物です。
 
――好きなメイド喫茶、よく行くメイド喫茶はありますか。
 
樺 喫茶サクライ。
 いえ、あんまりいかないです。夏場にあの格好でビラ配ってるメイドさんとか見ると頭が下がります。
 
――「本物のメイド」が重んじるとされる職業道徳(?)「メイド道徳」という設定の由来はどこにありますか? なにか参考にされたもの、着想の手がかりとなったものがあれば教えてください。
 
樺 由来としては武士道です。
 ただ、武士道ってのはまあ実はかっちりしたあれでもないので、適当に。
 あと、新撰組は意識しました。
 
――そういえば主人公のメイド・エヴォニイはセイロン島(スリランカ)出身ですが、この設定の由来は?
 
樺 某登場人物のモデルの人と縁深い土地なので。
 あとはまあ、主人公は異人にしておいたほうが話が回し易いよなあ、と。
 
――スリランカといえば、軌道エレベータはお好きですか?
 
樺 ラダム獣が出そうで怖いです。
 見も蓋もないへりくつ大発明の感があって、好きです。
 
――この作品のサブタイトルは「メイドVS名探偵」であり、内容的にはメイドが探偵の活躍を妨害するお話です。つまり、メイドを主人公にした「反-探偵小説」だと言えると思いますが、樺さんの探偵小説(ミステリ)観、好きなミステリ作家、作品があれば教えてください。また、その理由も。
 
樺 謎があって解決がある、ような気にさせ続ける小説、ではないでしょうか。
 
 徐々に徐々に話を入り組ませていって、最後の最後にその複雑さに対応するだけの入り組んだ別の話をぶつける。そういう複雑さの対消滅とでも言うべきカタルシスと、話が入り組んでいっている気にさせる誘導、それが恐らくはミステリの本質であって、今回はそのようなカタルシスと誘導の双方を脱臼させることを目指しました。謎は入り組まないし、解決編にその説明の複雑さに由来するカタルシスはありません(元ネタを知っていればニヤリと出来るかとは思いますが)。であっても、面白い小説は存在しうるし、そういう小説を書いたつもりです。ジャンルに依拠しつつジャンル特性を引き算することでフィクションの剥き身へアプローチしようとした、と言いますか。
 
 まあそんな大層なものでもありません。入り組んだトリックを追いかけるよりはゆるゆると馬鹿馬鹿しい小ネタを見せたいかなあ、というくらいです。フィクションてのは、究極的には馬鹿馬鹿しい小話なのだと思います。笑えて、驚けて、そしてちょっぴり真実のかおりのする。
 
――世界恐慌の余波を受けてメイドが激減し、探偵が活躍する(本格ミステリが隆盛する)1930年代、第一次大戦後のイギリスを舞台にした理由を教えてください。
 
樺 ひとつの社会階層が消滅する、というのは結構な大事件だな、と思いまして。
 戦間期本格探偵小説の勃興、というのはむしろアメリカ中心の話なのですが、最初の世界大戦の影響が大西洋の東ではメイドの消滅、西では本格探偵小説の勃興として出た、というのは面白いな、と。なので、アーノルドにはアメリカに行ってもらいました。
 イギリスにおける探偵小説の勃興はビクトリア女王の長い治世の末ごろになります。メイドと名探偵の交代、という現象は、ならばあると言っていいだろう。
 で、その交代が不可逆と言える所まで推し進められるタイミングはやはりメイドの激減した戦間期になるのかな、と。
 
――この作品は、ミステリだけれども殺人事件が起こらない「日常の謎」(?)タイプに類する「コージーミステリ」(?)かなあと思いますが、殺人事件を登場させなかったことには何か意図や意味がありますか?
 
樺 人を殺して読者の感情を揺さぶろう、というのはなんだかさもしい根性だな、と思ったもので。
 そういう考えでミステリっぽいものを書くのははたしてどうなのかとは自分でも思いますが、まあ、第一作くらいは潔くいきたいかなあ、と。 
 次からはばんばか殺します。
 
――好きな「名探偵」はいますか?
 
樺 レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウは大好きです。というか、テリー・レノックスとの組み合わせが。
 エヴィの身長6フィート強は、マーロウから頂きました。
 
――樺さんの探偵小説ベスト3を教えてください。また、その理由も。
 

・レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』
 一本筋の通った解決への道筋はあるんだけれど、それはまあどっちかって言うとゆるくて、寄り道するように語られるエピソードが際限なく美しい、という、ある意味創作の理想です。
 前に述べたとおり、エヴィの身長はフィリップ・マーロウからいただきました。
 
・笠井潔『バイバイ、エンジェル』
 端正な本格探偵小説、なんですが、中々どうして語られる動機と作中の殺人事件に落差があって、なにか、単純にしっくりとはいかない趣があります。パズル的であることの外に探偵小説の探偵小説たる根拠を求める倫理性が語りの緩急における完璧な結構を呼び込んだ、とでも言いますか。これでいいはずはないけれどこうでなければいけない、という。
 
・清涼院流水『コズミック』
 特に前半の密室卿の犯行が綴られているあたりがたまりません。
 ミステリで全体小説を志向して、ある程度以上それに成功しているな、という感触があります。全体小説は社会の全体を描き出そうとするわけですが、社会の全ての項を拾い上げていては原稿用紙が何枚あっても足りない、という困難があります。この困難は社会の各項から普遍的な部分を抽出して、それをいじくりまわす形で回避するのが常道ですが、ここで抽出される普遍性が、密室そしてそこでの殺人という、まさにミステリ的な要素である、というあたり、どこをどうやって思いついたものか、もうわけがわかりません。
 
――この作品にはとあるSF作家を参考にしたらしいキャラクターが出てきますが、樺さんのSFベスト3を教えてください。また、その理由も。
 
樺 ベスト3って言われると難しいですね。
・ハーラン・エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』
 アメリカニューウェーブSFの特攻隊長・ハーラン・エリスンの唯一の邦訳短編集。表題作は『新世紀エヴァンゲリオン』から『世界の中心で、愛を叫ぶ』までまあ、色々引用されている名タイトル。
 一番好きなのは、前書き。センチメンタルで勢いがあって。
 収録作品もどれもいいけれど小品「不死鳥」がまとまりがよくて好き。
 
・アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』
 クラークでどれか、と聞かれたらこれ。人類の来し方行末、という、SFの大本流をスペキュラティブに扱った古典。
 バイコヌールの上空をUFOがゆく切ないオープニングもさることながら青春の奢りを伝えるラストシーンが大好きです。
 
・古橋秀之《ケイオスヘキサ》シリーズ
 古橋秀之先生の電撃ゲーム小説大賞第二回大賞受賞作『ブラックロッド』にはじまる、オカルト・サイバーパンク三部作。
 現代日本SF史というのはつまり『幼年期の終わり』の変奏の歴史である、ととりあえずは言うことが出来て、そうなると光瀬龍『百億の昼と千億の夜』と小松左京『果てしなき流れの果てに』が二つの、二股の道のそれぞれ最初に打ち立てられた里程標として考えられるわけですが、この二股の道の交点に『ブライトライツ・ホーリーランド』は位置していると思います。ライトノベルってこんなことやってもよかったんだ、と思わせてくれた大傑作。
 『ブラックロッド』の高密度で洗練されたスタイルには驚愕しましたし、切ない青春SFの傑作『ブラッドジャケット』は何度読み返したか分りません。
 
――樺さんは時代小説もお好きなようですが、時代小説ベスト3を教えてください。
 

・荒山徹「柳生大戦争」
 単行本未収録作品ですが。
 朝鮮・柳生・捏造・ホモという荒山先生の四大要素がぎっしりつまった最新作にして最高傑作だと思います。これだけノリノリで嘘がつけたらなあ。荒山先生の嘘には分厚い教養の後ろ盾があるので、自分はまだまだだなあ精進しなければ、と。
 
・隆慶一郎『柳生非情剣』
 一貫して自由を追求し続けた作家・隆慶一郎が描く、柳生一族に題を取った短編集。
 柳生宗矩の兄・柳生五郎右衛門を取り上げた「逆風の太刀」の小早川秀秋が、かわかっこいいです。はた迷惑な自由をこれだけ爽やかに称揚できるのってすごい。「俺の藩だ。俺が潰して何が悪い」は一度は言ってみたい台詞。
 
・藤沢周平『三屋清左衛門残日録』
 潘の用人を隠居した三屋清左衛門が出会う、事件の数々を描いた連作短編。
 苦い人情話をしっとりと描き出す、気恥ずかしいくらいに上質な時代小説です。
 
――先達に追いつけるいうがんばってください。最後に、今後の執筆活動への意気込みをお願いします。
 
樺 適宜、頑張ります。

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