

佐藤:川島さん(劇団ひとり本名)は、二作目を書かれているんですか。
劇団:はい。これから書き始める予定です。
佐藤:やっぱり1作目とは違います?
劇団:違う。何せ『陰日向』が売れちゃったので、次こそコケろって思っているやつが大勢いるんじゃねえかと思って。で、コケたら一斉に「ほらみろ」って言われるんですよ。相当プレッシャーはあります。だから、出さないです。
大槻:出さないんだ(笑)。
劇団:出しません。僕はプレッシャーを押しのけないタイプなんで、ちょっとやそっとでは出さないですね。
大槻:だって、次に書くときは、たぶん帝国ホテルクラスに泊めてもらえるよ。
劇団:まさか。
大槻:ホテルにカンヅメしてると、いろいろわかってくるよ。例えば、あるホテルのメニューに、「本日の魚ディナー」というのがあるのね。で、本日のって書いてあるから、訊くじゃない。おれ、もうそのホテルを利用しはじめて、5年になるけど、ずっとカジキマグロ。「本日の」って書いてあるのに、いつ泊まってもカジキなの。
佐藤:そこか(笑)。大槻さん自身は、2作目のときはどうでした?
大槻:2作目は『グミ・チョコレート・パイン』なんだけど、この連載第1話目は、レコーディング・スタジオで三時間半ぐらいで書いたの。25枚ぐらいを。ありがちな表現だけど「何かが降りてきた」ってやつでしたね。でも、そんな調子で5話ぐらいまで書いてたら、突然、小説を書くことのこわさに気づいてしまってノノ書けなくなっちゃったんですよね。すごく思い詰めてしまった時期がありました。
佐藤:『グミ・チョコ』って、スタートしてから完結するまでにすごい月日が経ってますよね。10年とか。
大槻:芸人さんもそうだと思うけど、なまじ音楽の方で、オーディエンスがダイレクトに歓声を返してくれるような、きらびやかな世界を知ってしまっているからね。だんだん物書きの地味さに耐えられくなってしまったのかも。
佐藤:そういうの、たしかにうらやましいです。物書きはほんとに孤独ですからね。
大槻:だって、きゃーって言われないですもんね。
佐藤:言われないですね。
大槻:編集者がメールで「よかったです」って言ってくれるくらいだもんね。
佐藤:それすら来なかったり(笑)。書き終わるまでは一時間置きに電話をかけてくるのに、原稿を送ると途端に音沙汰なくなりますものね。
劇団:そんなもんなんですかね。男と女みたいですね。しちゃったらもう連絡がない、みたいな。
佐藤:しまいにはもう、そこに何が書いてあるのかとか関係ねえんじゃねえかって思えてきたり。
劇団:もう文字数さえあってればいいやと。
大槻:正直、編集者さんでもごく希にそういう人もいますからね。とりあえず入れてくれ、内容はどうでもいいっていう人。中島らもさんも、あるとき連載で同じ原稿を2号続けて送ったそうなんですよ。そうしたら2号とも普通に載ったんだって。
劇団:その編集さんは読んでなかったことですか。
大槻:らもさんの冗談につき合ったのかもしれませんけどね(笑)。でも、逆にチェックが厳し過ぎるのも困るんですよね。「おれ」とか「僕」とかその時々で変えたいときもあるでしょう。でも、校閲さんは必ず表記を統一しろと言ってくる。
佐藤:あー、ありますね。
劇団:でも、校正をやっている人たちってどんな人たちなんですかね。会ってみたいです。ものすごく細かいでしょう。僕、「子供のころF1レーサーになりたかった」って書いたところがあったんだけど、校閲さんから「この人が子供のときにはF1はまだ存在しない」とか返ってきて。すごいなと思いました。
佐藤:それは、素晴らしい校閲さんです。
大槻:でも、読者で気づく人ってまずいないよね。悲しいぐらい気づいてくれない、間違えたのに(笑)。
佐藤:僕はアニメ業界にいるんですけど、そこではみんな何を書いても気づきますよ。もうちょっと許してくださいっていうぐらい厳しいですね。
劇団:すごい深読みもしてくるじゃないですか。あのセリフはこういう意味で、だからヤツはこう言ったんじゃねえか、みたいな。『エヴァ』なんかも絶対そうでしょう。みんなが勝手に解釈して、勝手にでっかい話にして、でもたぶんあんまり考えてなかったと思うんだけど…。
佐藤:(笑)。アニメの脚本をやっていて教わったのが、外連味のあるセリフは、神話とかキリスト教からとるってことですね。困ったときは神話や聖書を買えって、押井(守)さんから教わりました。
劇団:意味深だから?
佐藤:いや、著作権がないから、と。
劇団:あっ、そういうことか。
佐藤:大槻さんって、『新興宗教オモイデ教』の文庫版に丸尾末広さん、『グミ・チョコレート・パイン』に江口寿史さん、その他にも羽海野チカさんや浅田弘幸さんを表紙イラストに起用してますよね。この辺のマンガ家さんの使い方は、ライトノベルの文化と近いと思うんですよ。
大槻:そうですね。昔だったらめずらしかった気がするけど、僕らの世代からじゃないですかね、マンガでもなんでも関係なく取り入れるようになったのは。僕は、やっぱり自分の好きなマンガ家さんとか、イラストレーターさんにお願いしたいという気持ちがありますからね。今のライトノベルもそういう方向なんでしょうか。僕、ライトノベルの表紙とか見て「次はこの人でどうですか」って編集者さんに言ったりしてるんですよ。
佐藤:おお、そうなんですか!
劇団:えーと、僕はあんまりライトノベルのことを知らないんですけど。「ライトノベル」って、おれ、軽いっていう意味のライトかと思ったんですけど、イラストノベルをもじったものだっていう人もいましたよ。
佐藤:語源的には、軽いっていう意味から来てますね。でも、たしかにイラスト入りノベルのことも指します。昔で言えばジュブナイル小説みたいなニュアンスですよね。
劇団:本屋さんにライトノベルコーナーというのがあるんですか?
佐藤:あるんですよ。
劇団:それはジャンルなんですか。
佐藤:あー、鋭い質問ですね。ライトノベルの定義は曖昧なので、読者の間でも物議を醸すところなんです。ざっくり言ってしまえば、「主に少年少女向けの、イラスト入りエンターテインメント小説」という感じ。
大槻:やっぱり主人公はみんな若い子が主人公?
佐藤:そうですね、学園ものがメインになってます。萌えに転んでも、ファンタジーにいっても、戦争ものになっても学校が舞台になっているものが多いです。
大槻:あまりモテないような本をよく読む中高生の、ちょっとした現実逃避にみたいな部分がありますよね。おれも高校時代、好きだったしな。
劇団:みなさん、ライトノベルで出しますよと言って書くものなんですか。書いたものがたまたまライトノベルだったとかいうわけじゃなくて。
佐藤:基本的には前者ですね。ライトノベルのレーベルというものがあって、そこで書くとライトノベルと認識されるのが一般的です。ちなみに棚も普通の文庫と違って、マンガに近い場所にあります。
大槻:棚といえば、俺の本って文芸の棚にもタレント本の棚にもサブカル棚にも置いてもらえるんだよね。それはいろんなタイプの読者に届くわけだから、ほんとありがたい。でも、タレント本コーナーに置かれているから小説として認めないっていう読者層もあるんですよね。そういう人に届かない悔しさがあって。でも、それを超えるのが実力なんだよね。それこそ『陰日向』はいろんな人に届いてる。棚の壁を突破したっていうのはすごいよね。
佐藤:最初、本屋で見たときは、タレント本のとこにありましたけど、三カ月後に見たときは文芸のところにもありました。両方にガッと平積みで置いてありましたからね。
劇団:僕はこの本を出してからほとんど本屋さん行ってないですよ。なんか自分の本を見に来た感じがするかと思って。
大槻:えっ、何で? それ自意識過剰だよ。
劇団:でも、絶対見るでしょう。出した本人がいたら、自分の本をどういう顔で見てんのか、みんな見たがるでしょう。うっとりしてんのか、ついに出したぜみたいな顔をしてるのか、みんな気になるじゃないですか!
佐藤:ああ、それは見ちゃうかも(笑)。
大槻:おれなんて、この間、吉祥寺のビレッジヴァンガード行って、自分の本、正面に立てといたもん(笑)。でも重要よ、そういうの。今でもやるべきよ。
佐藤:でも、ライトノベルにも棚によるジャンル分け問題はありますね。それ以外の小説と、そこでもう区別されちゃう。
大槻:少し前までは、一部のライトノベル作家には、そうじゃない小説に対する、ちょっとしたコンプレックスみたいなものがあったりしたらしいですね。ほんとはライトノベルじゃない小説を書きたいんだけど、食うために今はこれを書かなくちゃ、みたいな。
佐藤:なくはないですね。
大槻:でも、最近はそうじゃなくって、直球でライトノベルが書きたいよ! っていう若い人たちが出てきたんでしょう? ライトノベルを読んで育ってきた世代の子たちが。
佐藤:そうなんです。それに、ライトノベルじゃなきゃできない表現も出てきましたし。たとえば、いわゆる文芸出版部というところは、さっきの校閲さんの話もそうですけど「てにをは」問題にもうるさいし、出すまでに何年もかかったりする。でもライトノベルは、厳密な メ正しい日本語モというものに囚われずに表現してもOKなんです。書いたら毎月どんどん出ていくので、現在進行形の新鮮なテンションを文章に定着させるには、もってこいなんですよね。スピード感がある。
大槻:僕の書いた『オモイデ教』は絶対ライトノベルの範疇だったと思うんですよ! 『グミ・チョコ』もそうだし。
劇団:そうなんですね。
大槻:自分でも、大槻ケンヂはライトノベル作家だという意識があるんですよ。まわりにはあんまりそう思われていないみたいだけど。
佐藤:僕もそう思います。素晴らしいライトノベルだと思います。
大槻:だからライトノベル読者のみんなに、僕の本をいっぱい読んでほしい。
佐藤:すでに、大槻ファンはライトノベル読者のなかにも大勢いると思いますけどね。大槻さんがエンディングテーマを担当されているアニメ『N・H・Kにようこそ!』の原作者、滝本竜彦さんも大槻さんの大ファンだそうですね。彼の小説もライトノベルに分類されることが多いんですよ。
大槻:そうなんですよね。だから、普段ライトノベルに親しんでいるような子たちには、僕の作品も受け入れてもらえるんじゃないかなって期待してるの。しかし、それで言うと『陰日向』なんかは、どっちかっていうと純文寄りだよね?
劇団:え、そうなんですか。
佐藤:ちょっと古風な感じですもんね。もちろんあれだけ若い人に支持されている小説なので、ライトノベル読者にもファンはたくさんいると思いますけど。
劇団:そうか、自分ではぜんぜんわからないや。
大槻:そういえばさ、女の子向けのマンガとかライトノベルには『BL』っていうのもあるんだよ。知ってる? ボーイズラブ。男の子同士が絡み合うの。
劇団:どこがライトなんですか、それ。すげえヘビーじゃないすか。誰が買ってるんだろう。
大槻:腐女子の方々らしいよ。腐った女子と書くらしいんだけど。すごい厚い層があるらしいんですよ。男性がふたりいれば、そこに何かを想ってしまうという。だから、劇団ひとりも誰かとくっつけられてるハズよ。勝手に、頭の中で。
劇団:僕だったら… 舘ひろしさんがいいなあ。やっぱ舘さんですよ!
大槻:腐女子の方々としては、ふかわりょうとか、あのあたりとできててほしいんじゃないかなあ。
劇団:いやー、舘がいいですね。そこはちょっと譲れないです、腐女子のみなさん。館さんにはまだお会いしたこともないですけど、楽屋で2人っきりになっちゃったら、僕どうなるかわかりませんよ。
大槻:今、劇団ひとりが腐女子に夢を与えました。
劇団:舘ひろしと劇団ひとりのBL読みたいなあ。もしくは、『あぶない刑事』とか、みんなデキてるっていうのでもいいなあ。
大槻:もう「ボーイズ」じゃないね(笑)。
劇団:むしろ、ダンディ。ダンディ・ラブ。DLですよ。
大槻:DL(笑)。
劇団:でも、ちょっと恐怖感もあるんですけどね。なんか自分の中の変な欲求が芽生えちゃったらどうしよう、みたいな。こうやってしゃれで言ってたのが、実際に読んでみたら、「なんだよこれ」とか言いながらも、ガチガチになってたらちょっとやばいから。ガチで。ガチひろし。
大槻:まあ、いまの話は置いておくとしても(笑)、ライトノベルがまだまだ不定形なものなんだとしたら、そのうち今の感覚を超える新しいアプローチも出てくるんじゃないですかね。
佐藤:そうですね(笑)。ライトノベルという形式には、まだまだ、可能性が詰まってると思っています。だから、これから小説を書こうかなというひとたちにも、あまり既存の価値観に縛られないで、なるべく自由に書いてもらいたいんですよね。それこそ、おふたりみたいに、気負いなく書きはじめても、なんだかスゴイものができちゃった、ということもあるんだし。ガガガ文庫としても、ここから新しい何かが生まれたらといいなと思っています。

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1966年生まれ。東京都出身。ミュージシャン、作家。82年にバンド「筋肉少女帯」を結成、インディーズレーベルのナゴムレコードで活動する。88年にアルバム『仏陀L』でメジャーデビューし、人気を博す。脱退後、2000年に「特撮」を結成。作家としては、94年に「くるぐる使い」、95年に「のの子の復讐ジクジク」で2年連続「星雲賞」を受賞。著作多数。最新作品は『ロコ!思うままに』(光文社)。

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1977年生まれ。千葉県出身。タレント、作家。パイロットである父の仕事の都合で少年期の一時期をアラスカで過ごす。94年、お笑いコンビスープレックスを結成し、太田プロライブに出演。2000年、相方の失踪によりピン芸人「劇団ひとり」となる。2004年には銀座小劇場にて初の単独ライブを行い、ソロDVD『都会のナポレオン』をリリース。その後、テレビドラマ『電車男』(CX系)『純情きらり』(NHK)、映画『嫌われ松子の一生』などに出演。
2006年08月25日
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