大槻ケンヂ×劇団ひとり写真(大槻ケンヂ×劇団ひとり×佐藤大)文章を書くということは怖いこと。それでも貪欲にネタを探す自分がいる。

佐藤:おふたりは、お笑いのことや、バンドのことを小説に書かれているじゃないですか。書いているときには何となくモデルはいるんですか。

劇団:僕がつかんだコツみたいなものといえば、登場人物を動かすときに、タレントでもなんでもいいから誰かのを思い浮かべること。性格というより、なんとなく顔のイメージとかをつかんでおくと楽だった。

佐藤:ぼわっと思い浮かべて書くんですね。

劇団:途中で変えたりしますけどね。やっぱり合わねえからやめたって。

大槻:僕は大概、リアルにモデルがいるのでね、勝手に出すなとか怒られたりすることはよくあるよ。

劇団:あ、テレビのトークで女の子の話をネタにして、クレームが来ることは僕もよくありますけど。「何、イロつけて話してんの!」みたいな。

大槻:おれ、昔、ある食べ物屋さんのことをオモシロ可笑しくエッセーで書いたんですよ。そしたら、それから数年後、そのお店に行ったらものすごく怒られたってことがある。

佐藤:覚えているんですね。数年経っても。

大槻:うん。自分としては、誰が読んでもオモシロ可笑しく読める感じで書いたつもりでいたの。だから場合によっては「いい宣伝になったよ! ありがとうございますね」って言われるかな?って思っていたんですけど。すっげえ怒られてしまいました。「塩まけ」って言われたもんね。だから、文章を書くことって、やっぱり怖いなと思いました。

佐藤:怖いですよね。

大槻:ええ、ほんとに怖いと思ったんです。だから、またそのことを書きました。

劇団:またさらに(笑)。いや、そんないいネタまずないですもんね、普通に生活していたら。ちょっとしたことがあったら、もう喜んで何でも書いちゃう、何でもしゃべっちゃう。そういえば、大槻さんの本に出てくる女の子って全員かわいいんですけど、これもモデルいるんですか? 

大槻:ま、都合よく組み合わせてね。理想だもん。こんな子がいたらいいな、っていうのを書くでしょ?

劇団:『陰日向』に出てくる女の子も、大槻さんの本に出てくるような子にしようと思ってたんですよ。『リンダリンダラバーソール』のあの子とかかわいらしい。

大槻:コマコね。今やってる『筋肉少女帯物語』ではコマコと完全に逆なキャラにしたりしてるよ。困ったトラブルメーカーにしてね。どっちも何人かはモデルがいます。

劇団:お、そうやってキャラはできるんですね。

どんな世界にもコミットしていく/自意識が働いちゃう/これ何かのネタなるかな

佐藤:大槻さんは、物語をつくるときは、キャラクターから物語をつくっていくほうが多いんですか。それとも、こんな感じのものを作りたいなという大枠があって、進めていくんですか。

大槻:後者ですね。大枠だけ決めて。でも、それは書いているうちに変わっていっちゃいますけどね。面白い小説をつくるコツは「自分だけが知っていることを、誰もがわかるように書くこと」だとか、よく言われますけど、それは本当にそうだなと思います。逆に、よく知らない世界のことを書いちゃうと…。

佐藤:すぐバレますね。

大槻:そうそう。だから、僕には渡辺淳一先生みたいな壮絶な不倫小説は書けないですよ。そういう世界をまったく知らないわけだから。

佐藤:でも、知らない世界のことをものすごい量の取材をして書くタイプの作家さんもいますよね。高村薫さんとか、執筆対象についてとことんリサーチしてから書いている。

劇団:ただ、それもけっきょく同じことなんでしょうね。取材してその世界にどっぷり浸かって、自分のものにするまでは書かないってことでしょう。

佐藤:そういうことですよね。沢木耕太郎さんなんか、取材対象者が自分に乗り移ってくるまでは書かないとも言われてますものね。

劇団:でも、実際には、どんなに取材しても自意識が働いちゃうと思うんだよな。たとえば、僕が警備員の話を書こうと思って警備員をやってみたとしても、どんなネタがあるだろうと思いながら警備しているわけだから、ほんとの警備員の気持ちにはなれないでしょう。

佐藤:たしかに。

大槻:それ、僕で言ったらタレント業がそんな感じよ。今でもタレントという意識がなくて、テレビに出てても、その世界を覗いてる感覚なの。見学だよね。これ何かのネタなるかなって思いながらやってるから、それで水道橋博士とかに怒られるんだけど(笑)。「少しは進行できるようにしろよ。あんた、何年テレビに出てるんだよ!」って、この間まじめに怒られた。

佐藤:説教食らったんだ(笑)。

大槻:そうなの。でも、テレビの収録現場は面白いんですよ。アイドルちゃんがいて、役者がいて、若手芸人がいて… 人種のるつぼみたいなところなんですもん。

佐藤:わかります。映画『CASSHERN』の脚本をやっているときに、ずっと家で書いていたんですけど、ちょっと撮影に顔を出したら、いきなりきらびやかな世界が広がったような気がした。だけど現場では誰も相手してくれないんですよ。大道具の人が「どいて」とか言って。でも、どんな世界にもコミットしていくという好奇心は絶対、必要ですよ。僕みたいに端っこで見ている感じだったとしても(笑)、なにかを書くときには参考になると思う。

劇団:きらびやかな世界といえば、おれ、20万部ぐらいを超したときに、編集の人がお祝いでご飯でも食べに行きましょうって言われて行ったんですよ。そしたら、幻冬舎の人とかがいっぱいいたり、うちのマネージャーとかもいるものかと思ったから、その人ひとりだけだったんです。女性なんですけど。場所もすごいちゃんとしたところで。おれ、これ、抱かなきゃいけないのかなと(笑)。何となく小説の世界って、そういうイメージがあるじゃないですか。なので、勝手にビビッて後輩を呼んで、3人でマジックバーとかに行って誤魔化してみましたが。

大槻:いいなあ。おれなんて、若い女性編集者と「じゃあ、飲みに行こう」なんてなるじゃない。そうすると、場所も近所の飲み屋だし、けっきょくおれが奢ってるんだよな。「すいません、落ちないんですよぉ」って言うの。銀座で接待とかも、ないもんなー。

劇団:あれ、行って何をしているんですかね。打ち合わせしているんですか。「うちで出してください」っていう接待なんですか。

大槻:聞いた話だと作家先生っていうのは、大先生で名前は知られていても、あまり顔は知られていない。だから、ちゃんとちやほやしてくれるのは銀座だけなんだって。銀座の人は勉強してくるから。

劇団:おれ、この前どこかの社長さんに初めて連れていってもらったんですよ。銀座のクラブ。でも、全然楽しくないんですよね。

大槻:うん、楽しくないよ。

佐藤:逆にどういう接待だったらいいですか。

劇団:もし、おれが若い後輩たちを接待してやるとなったら、まず風俗。

大槻:そうね、若いもんはそうね。

劇団:風俗に行って、その後うまいもんを食わせる。何かキャバクラとか中途半端な感じだと、ゆっくり話もできないし、一回とりあえず抜いてこいと。その後、飯食って話そうやという。

佐藤:豪傑だね。

大槻:いい兄貴だ。それは、自分がこれから芽が出るかもしれない作家を接待する編集者だったとしても? でも、抜けちゃうと何かを書こうという意欲もあんまりないかもよ(笑)。悶々としたもんがなくなっちゃって、すっきりしちゃって。

佐藤:童貞パワー的なね。

劇団:じゃ、抜きなしで! ボディータッチ系のむらむらするばかりの。その状態で、「書いてくれますか」って言ったら、僕は書きますね。それが一番かもしれませんね。

5、6年前とかに読んだ小説の風景/手癖には要注意。

佐藤:お笑いとかライブとかだと、回を重ねるごとに直していけるじゃないですか。お客さんの反応を見て、オチを変えたりとか、曲順を変えたりとかできる。でも、物書きって、基本ひとり作業じゃないですか。書いてるところを見ている人はいないし、逆にお客さんが本を読んでるところを見ることもないし。そんな中で、どうやって推敲していくんですか。つまり、自分の中でのダメ出しの仕方というか。

大槻:書き終わった後、完全に読者の気持ちになって読むようするのが、やっぱり基本かな。もしくは、一回頭の中で全部映画に変換して、自分がお客さんで映画で観たとしたらどうかなって想像したり。

佐藤:映像に変換するんですね。

大槻:すると、意外に見えてくることがあります。

劇団:脳みそってすげえなって思うのが、5、6年前とかに読んだ小説の風景をいまだに覚えていたりするんですよ。普通に町を歩いているときに、「この風景なんだっけ? あっ、あの小説に出てきたところだ」みたいにリンクしちゃうときがある。脳みそ、ちゃんと覚えてるわって。

佐藤:そうそう、思い出すのは意外と文章じゃなく景色だったりするんですよね。前にやった鼎談(冲方丁×神山健治×佐藤大の回)では、活字は活字にしかできないことをやるべきで、映像にひっぱられすぎるのはどうか、という意見も出たんですが。

大槻:いや、でもほんと、ビジュアルに転換しながら文章を読み直していくと、意外な改善点が見えてくるときがありますよ。小説家としてはまだ修行中の身だと自分では思っているから、僕は偉そうなことは言えませんが。

佐藤:自分の作品を客観視するのって、やってみるとかなり難しいことですよね。

大槻:それから、これは僕が抱えている問題なんですけど、オファーがあるのがうれしくて、どんどん引き受けちゃってたら、今、仕事が異常な数になってしまっているんですよ。で、それをさばくために、最近、なんとなく手癖で書くようになっちゃった気がするの。それなりに書けちゃうんだけど、でもそれ以上にならないというか、新しいところへいかないというか。これは怖いなと思ってる。

劇団:その、手癖というのは、リズムが似通っちゃうとか、そういうことですか。

大槻:それもあるし、なんだろうな。たとえばネタに困っていても、あと2時間以内に書かなきゃいけないときとかに、書けちゃうの。それなりのことを書いて文字数を埋めちゃうわけ。それで、60点ぐらいはとれちゃうんだけど、決して100点ではないわけ。

佐藤:バラエティー番組でやる大喜利に近いかも。あれ、そのひとの癖が出ちゃうときがないですか。前と同じようなオチになっちゃったなっていうとき。その場ではなんとなくウケて、でも終わった後、すごく後悔するという。

劇団:ああ… それは、ある。すごく悲しい気持ちになりますね。

大槻:でしょう。作家を続けるなら、手癖には要注意ですよ。 

以下、次へ続く!

大槻ケンヂ大槻ケンヂ
1966年生まれ。東京都出身。ミュージシャン、作家。82年にバンド「筋肉少女帯」を結成、インディーズレーベルのナゴムレコードで活動する。88年にアルバム『仏陀L』でメジャーデビューし、人気を博す。脱退後、2000年に「特撮」を結成。作家としては、94年に「くるぐる使い」、95年に「のの子の復讐ジクジク」で2年連続「星雲賞」を受賞。著作多数。最新作品は『ロコ!思うままに』(光文社)。

劇団ひとり劇団ひとり
1977年生まれ。千葉県出身。タレント、作家。パイロットである父の仕事の都合で少年期の一時期をアラスカで過ごす。94年、お笑いコンビスープレックスを結成し、太田プロライブに出演。2000年、相方の失踪によりピン芸人「劇団ひとり」となる。2004年には銀座小劇場にて初の単独ライブを行い、ソロDVD『都会のナポレオン』をリリース。その後、テレビドラマ『電車男』(CX系)『純情きらり』(NHK)、映画『嫌われ松子の一生』などに出演。



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2006年08月12日

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