東浩紀×イシイジロウ×佐藤大写真(東浩紀×イシイジロウ×佐藤大)意見の“縮小再生産のマトリョーシカにご用心。

イシイ:ライトノベルのブームって、2004年ぐらいからですよね?

東:「完全読本」的なムックが出はじめたのが2004年ですよね。今回のブームは、それらが先導している形になっている。キラーコンテンツのようなものが最初にあってブームが始まったわけでは、決してないんですよ。

佐藤:あの時期売れてたものっていうのは、もしかしたら今野緒雪の『マリア様が見てる』かもしれないけど、それは今のブームの中核をなすものじゃないもんね。

東:『幻魔大戦』みたいに、何か知らないけど話題になっているらしい…って風にじわじわ来て爆発したブームじゃないんだよね。

佐藤:そういう実態が見えてきちゃうと、今のブームが瓦解する瞬間がそろそろ来るような気がしてきますね。

東:たとえば、谷川流の「涼宮ハルヒ」シリーズ。今、アニメが話題になってることもあって、amazonで10位中に5冊ぐらい入ってるんで、ネットで一番売れている本でしょう。でもこれは末期的とも言える。「涼宮ハルヒ」は、アニメ版は知らないけれど、小説は明らかにメタライトノベルです。この作品が、ライトノベルの新しい世界の扉を開いたっていうよりは、ライトノベルの「メタ」なんだよね。同じく人気作家である西尾維新も、メタライトノベルと言える。批評的に見て面白いけれど、そういう作品がライトノベルのマーケットの中心ってどうなのか。

佐藤:本来ならカウンターであるべきものが、メインになってしまっているってことですよね。それはアニメにも言えるんですよ。『エウレカセブン』とか『BLOOD+』は、カウンターだったはずだし、『ガンダムSEED』もガンダムに対するカウンターだったはずなのに、今やそれがメインのように扱われてしまっている… カウンター的な作品がきちんとカウンターとして成立してないと、シーンは脆弱化しちゃう。

イシイ:カウンターを取られているのに、わからない。メタなのに、それに気づかず真正面から受け止めてしまうユーザーが多すぎるのも原因かもしれない。

東:「涼宮ハルヒ」シリーズは、ライトノベルの約束事自体を対象化してつくった小説。あれをわかるためには、ライトノベルの感覚がわかっていなくてはいけない。それを読んで、そのまんま影響を受けた若い子が登場してくると、まずいことになると思います。

佐藤:マトリョーシカ状態(笑)!?

イシイ:縮小再生産か。

東:となると、3年とか4年後にどういうマーケットになっていってるかは見えてきますよね。そんなことでいいのか!と。今回のライトノベルブームは、正直そういう方向に行きかねない危険性を持ってます。

イシイ:テキストアドベンチャー系のゲームで言うと、まず、『弟切草』とか『かまいたちの夜』がシステムとしての新しさとともに生まれたわけですけど、そのあと、結局、キャラクターやストーリーの“ゆるい”ものが量産されてしまったという流れがあった。それに近いのかな。

佐藤:もう、曲がり角曲がってますよね。これからどういう方向に収束するのかが問題かな。音楽で言うと、90年代後半に「渋谷系」という、とてつもなく大きい、正体のないブームが起きるんですよ。それはバイヤー、しかも渋谷の『HMV』のイチ店員が起こしたものだったんですが。イチ店員のレコメン・レコードが、世界を動かしているかのように見えたんですね。

東:そうなんだ。

佐藤:なぜそう見えたかというと、小西康晴と小沢健二と小山田圭吾という3人のスタープレイヤーがいて、彼らのコーナーをつくって推薦文も書いてもらってたりしたの。で、その作品たちがバカ売れして、徐々に「渋谷系」というブームをつくっていったのね。今回のライトノベル・ブームは、それにすごく近いように思うんです。実体がないのと、とんでもないものを見つけてきて「これイイよ!」って盛り上がる部分は同じなんだけど、そのあとを担っていく人が続かない。続いているかもしれないけど、なかなか見えてこないのが不思議なんですよね。

東:流れはあると思うんですけど。んー、どうなんだろう。硬質の物語をベタに普通に書いてくるスタープレーヤーが現れれば問題はすべて解決されると思う。それしかないでしょうね。

90年代の渋谷系/“齟齬感”が必要/他ジャンルと勝負

佐藤:今、どういうものを作家に求めていますか?

東:はっきりしているのは、「これライトノベルって言っていいのかな?」というようなものがライトノベルという分野に入ろうとした時に、何らかの化学反応が起きるのであって、「ライトノベルの規則を忠実に守って再現しました」というものばかり出てきても、何の意味もないということ。たとえば、新本格ミステリーの成功っていうのは、そういうところにあったわけです。綾辻行人の本質は、ミステリーのものじゃなかったのかもしれない。でもそれが、ミステリーの枠に入ったときに生じる妙な違和感、その余剰分が小説の魅力を出したり、ジャンルそのものを活性化させて、パワーを与えていくわけですよ。

佐藤:行間の魅力ですね。

東:それは京極夏彦もそうで、京極さんのって、普通に見てもミステリーでもなんでもないでしょう。『姑獲鳥の夏』読んだ時にびっくりしましたよ。これって、ミステリーなのかと! なんでもありだな、この世界、みたいな。

イシイ・佐藤:(爆笑)。

佐藤:いや、そう思う。そう思いますよ、ほんとに(笑)! 『ル=ガルー 忌避すべき狼』まで行くと、完全にライトノベルですし。

東:それはつまり、レーベルとの関係で、何かのカタチを取らなくてはいけないということなんですよね。レーベルの“カタチ”と、そこに作家がブチ込むものとの “齟齬感”が必要なんです。ところが、ライトノベルには初めからこうだという定義はない。「ライトノベルは何でもアリです、みなさんのお好きなものをどうぞ」という自由度を与えたところで、出てくるのはどこかのライトノベルの真似になるに決まってる。大変危ういわけです。

イシイ:まあ、アニメ業界もライトノベルも僕らゲーム業界も、同じ問題を抱えているんですけどね。僕らの業界は、ゲームだけを見て育って業界に入る人がほとんどだし。アニメが80年代〜90年代にエネルギーがあったのは何故かというと、たとえば富野由悠季さんたちみたいに、映画の世界からあぶれて入ってきた人が、映画と勝負しようとしてやってきたということもあると思うんです。
ゲームは、映画と勝負するような気概を、もう一度取り戻さないといけないし、ライトノベル作家を目指す人にも、クローズドな世界で縮小再生産するより、他ジャンルと勝負するような気概がほしいです。

東:たとえば『ひぐらしのなく頃に』は傑作だと思いますけど、あれも本当はメタ美少女ゲームなんですよね。だから、あのゲームやって、同じものつくったとしたら、それはもうアウトなわけです、完璧に。美少女ゲームの低迷——と僕には見えるけど——の原因は、そういう再生産にあるんでしょうね。

イシイ:希望よりも閉塞感を感じちゃいますよね。

東:最近のライトノベルの雰囲気を見ててもそう。最近、あるレーベルで面白い作家が出てきて、そこの編集者に「これは注目すべきだ!」と勧められて読んだんだけれども、確かに面白い。でも妙に上遠野浩平に似ているんですね。それで、それを編集者に言ったら「いやいや、この人は上遠野浩平を読んでないんです。だからすごいんですよ!」って。いや、でも、そっくりじゃん、と(笑)。そんな裏情報があっても、そっくりなことには変わりない。

イシイ:それは、帯に書いておかないといけませんね(笑)。

佐藤:「上遠野浩平読んでません!」(笑)

東:これは深刻ですよ。上遠野浩平を読んでいなくても、そっくりな作品が出てきてしまう。それぐらい、可能性が汲みつくされているわけです。上遠野の影響だったらまだいい。でも、そうじゃなくて、今のマーケットに対して面白いものを書こうとがんばってバランスをとると、無意識に上遠野みたいなものが出てきちゃう。もはや、方程式になっている!

イシイ:「方程式を解くの?」みたいな(笑)。

東:ちなみにこの人の小説は面白いんです。それはいいんですが。

佐藤:そして、編集者をも釣ってしまうのか。

東:でも、そうじゃなくって単純に、新しい、まだ見たことのない世界を見たいんですよ!

以下、次へ続く!7/9更新予定

東浩紀東浩紀
1971年生まれ。哲学者・批評家。専門は現代思想、表象文化論、情報社会学。1993年にデビュー。1998年に出版した思想書が話題となり、新世代の批評家として注目を浴びる。現在はオタク系サブカルチャーの現場に批評家として関わるかたわら、国際大学グローバル・コミュニケーション・センタ(GLOCOM)で情報社会学の研究を行っている。主な著書に『存在論的、郵便的』『動物化するポストモダン』。

イシイジロウイシイジロウ
1967年1月28日生まれ。兵庫県出身。リクルート、カルチュアコンビニエンスクラブで広告制作・映像制作を学び、日本経済新聞社グループ日経ビデオバンクに入社。96年同社にてなぜかゲーム制作を開始。『Little Lovers』など実験作を制作後、2000年チュンソフト入社。『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』で第9回 CESA GAME AWARDS優秀賞を受賞。現在サウンドノベルシリーズの新作を開発中。



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2006年06月28日

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>>[雑記]全ての文化はカウンターなのではあるまいか。 [ 古木の虚 ]

2006年07月07日 00:02
ちょっとよくわかんねえもんがあったので言及してみるテスツ。 小学館がライトノベルをやるってのはここを見てる人ならわりかしみんな知ってるかと思うのですが、...