東浩紀×イシイジロウ×佐藤大写真(東浩紀×イシイジロウ×佐藤大)意見の“相互調整システム”に抗え!!!

佐藤:前回はアニメとライトノベルの関係をベースに話を進めましたが、今回はもうひとつの潮流、美少女ゲームやテキスト・アドベンチャーゲームからはじまったライトノベルについての話ができればと思ってます。というわけで、評論家としてライトノベルの外側から内側を見ている東浩紀さん、テキスト・アドベンチャーゲームを制作されているイシイさん、よろしくお願いいたします。

東:よろしくお願いします!

イシイ:チュンソフトのイシイジロウと申します。よろしくお願いします。

佐藤:まず、お二方のライトノベルの原体験ってどこにありますか? 僕は『クラッシャージョウ』や『ガンダム』とかのソノラマ文庫から、夢枕漠さんや平井和正さんみたいな伝奇モノをたどっていきましたが。

イシイ:僕はそのちょっと前。『宇宙戦艦ヤマト』の『さらばヤマト』のノベライズから『ガンダム』に入って、SFに行きましたね。ライトノベルで言うと『ヴァンパイアハンター』とか平井和正… あのあたりですね。そのあとに新井素子を通っていった。

東:僕も新井素子のファンです! で、いちばん最初に読んだのは平井和正ですね。

佐藤:新井素子は吾妻ひでおのイラスト込みで好きでした?

東:いや、吾妻ひでおのイラスト、というより、単純にSFとして好きだった。石神井公園にUFOが落ちてくる話の『いつか猫になる日まで』が最初に読んだ作品でしたね。もともと僕はSF好きで、SF関連の文庫本は手当たり次第に読んでいたので、その流れの中で出会ったんじゃないかな?

佐藤:なるほど。前回の鼎談では、ブログっていう手軽なツールがあるによって、みんな小説を書かなくなっていってるんじゃないか、という話がでてきました。ブログを書くという行為は「消費」なのに、それを「クリエイティブ」だと勘違いしているから、それういう現象が起こるのではないか、と。ネットで文章を書く、デジタル化した文章を読む。メールや携帯電話、最近はモバイルマシンもそうですね。そこで文字読むことに慣れている人間に対して、紙媒体である文庫をアピールしていくことが、ライトノベルをつくる上での命題だと僕は思うんですが… そのあたりってどう思われますか?

東:いや、ブログはあまり気にしなくていいんじゃないかな? ネットで感想をいっぱい書く連中は、たとえブログがなかったとしても、どこかで衝動を発散すると思うし、それで満足する人もしない人もいる。それはデジタルとは関係ないと思います。
ただ、僕が問題視しているのは、プチ書評みたいなのがネットに出回る速度が速いので、評価が固まるのも速いこと。たとえば、さっき言った新井素子は、僕は当時、ほんとに偶然に本屋の棚で発見しているのね。新井素子の世間的な価値がどういうものかは知らなかったけど、とりあえず自分的には気に入ったから、それを大切に読むわけ。そうやってずっと面白いと思いながら読んじゃったものって、あとあと「あんなのダメだよ」ってもし言われたとしても、頑張るんですよね。でも、今ってそういう経験がなかなかできないでしょう。「とりあえず読んだ。ふーん、おもしろいな。でも検索してみたらみんな悪口言ってる。やべー。オレ地雷踏んじゃったよ。もう読まない、終了! 」みたいな感じですよね。

佐藤:僕も、富野由悠季の『ガンダム』の小説を読んだ時に、アムロが死ぬわけですよ──あ、ネタバレだけどもういいよね(笑)。ネットもない時代だし、小学生の自分は、その意見を誰とも共有できなかった。

イシイ:ああ、あれはショックでしたね(笑)。

佐藤:あり得ないですよ! 当時は、そりゃあ怒りましたよ。でも、そのまま大人になったとき、あれもアリなんだなと思えるようになってた。そういう寝かせ方が今はできなくなってきてるってことですよね。

イシイ:たとえば、信頼できる書評家が「こんな小説は一生に一度しか出会えない!」とか書いていたら、気になっちゃうもんですけど、ネットの世界ではそういうフレーズが簡単に書かれている。「こんなもの今まであったのだろうか」で始まって「知らないやつはバカだ」みたいな(笑)。でも、そんな風に書かれるものに限って、何かのパクリだったりすることが多いんですよね。
でも、そうやってブログでレビューを書いてるような層に訴えかけるタイプの小説やゲームは、ある意味巧いんだと思います。ああいう、「これがいいんだよね〜」と言いたい人たちにひっかかるお約束ポイントって決まっているんですよね。で、それをうまく使ってるゲームやライトノベルが、ヒットするという。

意見の相互調整システム/願望と実際の展開がズレた時/一般層にはあまり届いていない

佐藤:最近思うのは、人が物語に共感する力。小説でも映画でもゲームでも「こうなってほしい」という願望と、実際の展開がズレた時に、自分の中で処理することができない受け手が多い気がする。少しズレると「それは鬱展開だからナシ」とか言って切ってしまう。そして、その感想がネットによって伝染していく。これは東さんがさっき言ったことに近いのかなと。

東:そうですね。意見の相互調整のシステムが整っているということですよ。それはネット全体がどうってことではなく、ブログとかソーシャルネットワーキング・サイトのサービスの問題なんで、「デジタル」の問題とは別ですね。この辺は、ここ2、3年で急速に変わりつつある。2000年ぐらいの個人ホームページの時代と今は全然違う。何かについての意見を共有できやすくなってしまったので、作品の評価にしても無意識に一瞬で相互調整してしまう。それはあまりいい状況じゃない。いろんな人にとって不幸なことだと思います。逆に、ベストセラーも出やすいだろうけど。でも、全体的には、面白くないんだよなー、個人的に。

佐藤:びっくりするのは、他人の感想自体をトラックバックしてる人がいるじゃないですか。「ここが僕が考えていることと一番近いぞ」みたいな。何だ、そりゃ!と(笑)。

東:感想の転送、転送ですよね。

佐藤:小説の引用が転送されているんならまだわかるんですよ。打ち込むのが面倒くさいんだなとか。でも感想が転送されると、君の意見はどこにあるのかと言いたくなってしまう。

東:ぶっちゃけて言うと、今、ライトノベルがある程度売れている要因として、アフィリエイトというシステムのせいもありますよね。いっぱい感想が転送されれば、誰か間違えてクリックする人間もいるから、amazonでのランクが上位になっていくというロジックになっちゃってる。

佐藤:うーん。そこを考えちゃうと、暗澹たる気持ちになりますね。

東:ライトノベルは業界内でブームではあるけど、実際のマーケットとして本当に動いているかどうかは、怪しいもんですよ。

佐藤:市場が形骸化してしまっていると。

東:根本には少子化という問題もありますから、ライトノベルのメインターゲットが中高生なのであれば、基本的にマーケットは今から15年前、僕たちが中高生の時に比べて2/3ぐらいに縮小しているってことになる。これはでかい。で、それを補っているのはインターネットにおける意見の相互調整システムなんでしょうね。03年ぐらいからウォッチしてますが、まず、ライトノベル・ブームがあるかないかあたりで、ブログ界で「ライトノベルについて語るブーム」が来てたわけです。現在に至っては、どこどこの書店員、編集者がブログで作品を取り上げて、それを20代ぐらいの学生が盛り上げて… っていうパターンが見えてる。

イシイ:ネットは匿名性が高いせいもあって、誰もが堂々と持論を語りたがりますからね。

東:そう。その語りたいモチベーションっていうのが、要因としてすごく大きいと思うんですよ。だから、ネットで見る限りでは盛り上がってる感はあるんだけど、「地下に潜ってた巨大な水流が遂に出てきた」という印象ではないんですよ。

イシイ:深夜アニメと似たような感じで、以前に比べて本数も多いし目につくんだけど、いわゆる一般層にはあまり届いていないってヤツですね。

裏切りを許容できない/実はそのズレこそが/「こいつら、すごいことやるんじゃないの?」

佐藤:アニメ的なものって、最近になってよく見ますよね。書店に行ってもパッケージがアニメっぽいイメージのものが、新書でも文庫でも雑誌でも増えている。今は、いわゆるアニメ絵的なものに対する嫌悪感っていうのは払拭されている世界かもしれませんね。逆に、目にはつくものの、一般の人はスルーしちゃうかもしれないけど。

東:アニメのマーケットは拡大していると思います。量だけじゃなくて、質も全体的に良くなってる。ただ、95年に放映された『新世紀エヴァンゲリオン』から10年、それに匹敵する作品が現れたかと問われれば、「ない!」というのが誰もの回答でしょう。

イシイ:そういえば、エヴァの以前の状態というのも、「ガンダム以降ダメだよね」という風潮でしたよね。

東:象徴的には、84年あたりで実はひとつアニメのブームが起こっているんですけどね。『風の谷のナウシカ』と『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』が84年。

佐藤:宮崎さんが超現役だった時ですね。

東:『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』も84年ですよね。で、『オネアミスの翼』が86年で、87年に『AKIRA』が来た。87年と95年って遠いように見えて意外と近くて、なんだかんだでこのあたりでいろんな事件が起きていた。そういえば、『美少女戦士セーラームーン』も間に盛り上がりましたね(笑)。お子さま向けと言っても、あれはオタクの支持を集めたものだった。

イシイ:95年以降も、宮崎駿は再生産になっていたけれどもヒットを飛ばしてた。『ポケットモンスター』のアニメもヒットした。ただエポックメイキングな、10年20年間引っ張るような、語り継がれる作品はエヴァ以降ないですよね。

東:今は、たくさんの小さい作品が売れるようになってきてるけど、このくらいで「世の中に認められるようになってきました」とか言ってると、キラーコンテンツのないまま、結局萎んでいってしまうのではないですかね。そういう時期なんじゃないかと思います。キラーコンテンツが出てこないとそろそろ維持できない状態になってきてる。今までは「出てくるんじゃないか」という期待感だけでブームが膨れ上がったところがありますから。

佐藤:僕的には、ライトノベルもそうですが、新本格ミステリーもそういう感じに思えますね。なんとなくまた盛り上がってきているようだけれども、本当に一般的にブームにまでなっているのか、っていう疑いがある。

イシイ:『トップをねらえ!』とか『ふしぎの海のナディア』的な作品が、今のライトノベルの中にあるのであれば、そろそろエヴァ的なエポックメイキングな作品は出て来るんじゃないかなあ。エヴァも最初からメジャーだったわけじゃなくて、放映されはじめた時は、ガイナックスがまたやってるな、ぐらいの認識だったじゃないですか。それが知らない間に爆発していた。ああいう流れが今、ライトノベルの伏線にあって、水面下で沸々いっていれば本当にすごいものは来るかもしれない。なんだかすっかりガイナックス話になっちゃいましたが(笑)。

東:ブレイク前のガイナックスみたいに、「こいつら、またすごいことやるんじゃないの?」みたいな人が、どのぐらいライトノベル界にいるのかがポイントですよね。

イシイ:逆に、さっき大さんが言ってたみたいに、裏切ると客に引かれてしまう傾向になっているメディアには、金字塔的ヒットが出てくる気がしないんですよ、僕は。ゲームで言うと、90年代の半ばぐらいにプレイステーションで変なゲームがすごくたくさん出ていて、ギャルゲーでも尖ったものがあった。『NOEL』がわかりやすい例で。

佐藤:ありましたねー。バグだらけでしたけど(笑)。

イシイ:まさに実験期でした(笑)。でも、いつの間にかギャルゲーっていったら、ハーレムゲームというか、ただのモテゲーになってしまって、どんどん淘汰されていった。中には、プロットが凝ってるものとかあるんだけど、基本的にはユーザーを持ち上げてくだけの単なる幸せな世界。突き放すものがない。ライトノベルも、今後、そのような方向に行くのであれば、緩やかに消えていってしまうかも、という危機感はありますね。

佐藤:そうか。ライトノベルの現状は、美少女ゲームの閉塞感とすごく近いのか。ズレることを畏れるユーザーとクリエーターが中心になってしまっている、という。でも、ズレたものこそ、実は次の世界を産んでいたって可能性もありますよね。ガンダムもエヴァも、今から思えばずズレてたんですよ。「なにこれ、気持ち悪い」という人も当時いっぱいいて。今となっては伝説化してしまっているから、1話目から大評判だったように見えてますけど、ほんとはそんなことなかっんだ、ということを忘れちゃいけないのかもしれませんね。

佐藤:さっきの話に戻りますけど、評価が固まるまでに、本当は時間があった。

東:まあ、エヴァなんて、大絶賛されてたことないんじゃないですか? 最終回もバッシングだし。映画もバッシングですよね。一体いつ褒められているのかと(笑)。庵野さんがクサるのもわかりますよね。一回もほめてないじゃん、誰も、みたいな。

佐藤:でも、むしろ、そういう超バッシングこそが、このロングセラーを産んでいるわけですよね。そういう異質なものを受け入れられるか否か、そのあたりが今ライトノベルが、メディアとして問われているところなのかもしれませんね。

東:いずれにせよ、そろそろドカンと一発来てほしいですね! というか、こないと、ヤバい。

以下、次へ続く!6/28更新予定

東浩紀東浩紀
1971年生まれ。哲学者・批評家。専門は現代思想、表象文化論、情報社会学。1993年にデビュー。1998年に出版した思想書が話題となり、新世代の批評家として注目を浴びる。現在はオタク系サブカルチャーの現場に批評家として関わるかたわら、国際大学グローバル・コミュニケーション・センタ(GLOCOM)で情報社会学の研究を行っている。主な著書に『存在論的、郵便的』『動物化するポストモダン』。

イシイジロウイシイジロウ
1967年1月28日生まれ。兵庫県出身。リクルート、カルチュアコンビニエンスクラブで広告制作・映像制作を学び、日本経済新聞社グループ日経ビデオバンクに入社。96年同社にてなぜかゲーム制作を開始。『Little Lovers』など実験作を制作後、2000年チュンソフト入社。『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』で第9回 CESA GAME AWARDS優秀賞を受賞。現在サウンドノベルシリーズの新作を開発中。



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2006年06月21日

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2006年06月24日 07:13
どういう偶然の巡り合わせか、昔勤めていた出版社で名物編集者と言われ在職時からちょっとした憧れの存在だったE氏と出会い、彼が中心となって新しく立ち上げる文...

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2006年06月22日 13:01
ガガガトーク更新今回は東浩紀さんとチュンソフト