冲方丁×神山健治(2)写真(冲方丁×神山健治×佐藤大) 一発勝負に賭けるか、千本ノックか!?デビューは決してゴールではない!!!!

佐藤:小説を書くときには主観と客観ってどう定まっていくんですか。つまり、基本的には、一人称か三人称、ってなりますよね。

冲方:それはもう、書きながらです。主観の中に客観が入っていくこともありますし。

佐藤:書いてる途中で、失敗した!とか思って変えることってあるんですか?

冲方:ありますね。失敗じゃなくても、そのキャラクターが要求してくる文章の形っていうのは必ずあるんですよ。それともうひとつは、読者が要求してくる文章の形というのもありますし、または編集者が要求をしてくる場合もある。それらの中間点で描く、という感じですかね。

佐藤:そこは、じゃあ、けっこう自覚的なんですね。

冲方:そうですね。そもそも、主観の文章を書く人っていうのは、客観が発達してるんですよね。“私”を描かなきゃいけないわけだから、それはもうかなり客観視しないといけないんです。

佐藤:そこが、ブログなどと違うところなのかもしれないですね、客観視してないからこそのきらめきがブログにはあるのかもしれない。でも、それをエンタテインメント作品に仕立て上げるときには、主観を自覚的にしていかないとならないんですね。

神山:ブログとかでみんな散文的なものを書いていて、すごく上手いんだけど、じゃあなんでみんな作家にならないのかっていうと、それは、かしこまっちゃうからだと思うんですよ。皮膚感覚として、ブログの 4行の方がうまく訴えかけられるってこともあるんですよね。であるならば、なんでそういう風に訴えかけることができるのか、ってことを絶えず意識し続けたほうが良いと思う。っていうのは、これも練習ですよね。

冲方:他人が自分を見てるということを意識しながら書けないといけないんですよ。見てることにどんな意味があるのか、ってことを意識すると書き方も違ってくると思う。

神山:ブログの面白さっていうのも、基本的には書いてるのが誰だかある程度はわかってるから面白いんであって、あれ、何も知らないプロフィールも確認してないとある日の日記だけ読んだって、よくわかんないんだよね。

佐藤:自分の中でキャラが立ってこないですもんね。真鍋かをりのブログにしても、真鍋かをりがこういうこと書いてるんだなってとこも含めて面白いんですもんね。

神山:ブログはのぞき見感覚があるでしょう。真鍋かをりってこんなこと思ってるんだ、佐藤大ってこんなこと思ってるんだ、っていう内側が伝わってくるからこそ、皮膚感覚としてぐっとくる。でも、誰かの物語を描くエンターテインメント小説ではそうはいかないんだよね。パーソナリティを作品に転化していくには、やっぱり練習がいるんだよ。どれが自分に合ってるやり方なのかっていうのを、何度も何度も素振りして、カラダに叩き込んでいかなければならない。
ただ、まったく、そういうことに気がついてなくて、ポーンと「なんとなく書けるかもー」って思えるんだとしたら、逆にその良さは活かしてもいいかもしれないとも思う… 素を活かすのか、それとも練習してプロになるのか、その2択だよね。ま、それを前者を選択するとしたら、それは人生の中でほとんど1チャンスしかないわけだけど。

佐藤:一発勝負ですね。

神山:でも誰しも1回はあるわけ。ブログであれだけのものを書けるんであれば、そういう手法を最大限に生かして突然プロ化っていう可能性もなくはよね。見たことないものっていうのはそれだけで価値があるから。まあ、その1回でとりあえず賞とっちゃってから、デビューするまでに100万回素振りするって方法もあるし。

冲方:そうそう。デビューが決まったときからが、スタートなんですよ。磨いていかないとダメです。

神山:そんな感じで、針が両極で振れた方法でやってきてほしいなあ。

佐藤:参考になるかどうかわからないんですけど、ジェイ・マキナニーの『ブライト・ライツ・ビック・シティ』という作品、なんでこれが衝撃的だったのかというと“きみ”っていう二人称で書かれていたからなんですよね。80年代のサリンジャーとかいわれた人だけど。「きみはこんなことをするやつじゃない」って誰だよと思ったら、主人公を指してるんです。主人公であるYOUのドラマなんだけど、でもずっと読者に話しかけてる形式になってる構造が面白かった。この作者も、その1回しかやってなかったですしね。

神山:沢木(耕太郎)さんの本でも、檀一雄(檀ふみの父親)さんの奥さんにインタビューしたものを、奥さんの視点で書ききるというのがありましたね。これなんてジャンルだろう… っていうね。ノンフィクションなのに、沢木さんの視点はなくて、奥さんの主観で描いちゃってて、ものすごいもの。もちろん、すごい力量を持ったプロだからできたことだと思うんですけど、でも素人だとしても、そういった新しいことであればいけるかもしれないですよ。

佐藤:中原昌也くんの作品では、主観の人称は変わってないのに 主観本体自体がどんどん変わっていって、背景がどんどん変わっていくという短編もある。ふと気がつくと、なんで新宿にいるんだろうっていうことになってたりして。

神山:なるほどね。そういうのはやっぱり小説ならでは、だよね。

佐藤:それは貫井徳郎さんの小説なんかでも良くやられていて、行動に嘘をつく、というやつですね。映像化してしまったら、出落ちになってしまいますからね。

神山:叙述トリックってやつですね。こういうのはライトノベルでもどんどんやってほしいですよね。

冲方:ただ、描きたいテーマや世界があって、その方法を選ぶということならいいんですけど、でも例えば漫画でも「オレ、見開きが大好きだから毎ページ見開き!」とかやられても、何が言いてぇんだかわかんねえよ!ということになるでしょう(笑)。完全に手法が先行したもので、成功する可能性は低い。

神山:その手法で描けるだけのテクニックをつけないとならんよ、ということでもあるのかな。

佐藤:沢木さんのあとがきやエッセイなんかを読んでいると、最終形にたどり着くまでにものすごい量の実験をしてますもんね。村上春樹さんも毎回文体を変えて、戻してっていうのをやっていたりもしますが。

神山:文体を探す旅ですね。

喧嘩できる作家や編集者/あらゆるダメだしに耐えて/代案を探すって視点

佐藤:昔の文豪とかって、銀座でガチで喧嘩してたりするじゃないですか。そこに批評家とかも絡んできたりして、さらに揉めたり… そういうのって今あんまりないですよね。

冲方:ネットが普及して減ったのは、肉体的な喧嘩でしょうね。

佐藤:面と向かった喧嘩って、もっとあっても良いと思うんですよ。
僕、脚本の本読みなんかのときによく「佐藤さん、喧嘩してるんじゃないんですから」とか言われるんですよ。いや、別にあれは普通です、みたいな。けっこう話し合いのときの温度差って、人によって違うなって最近思いました。

冲方:きちんと喧嘩できる作家や編集者は良いものをつくる気はしますね。

佐藤:意地の張り合いとかじゃないんですよね。代案のない意見は意味ないですし。それはもうただの好みってだけなので。ネット上でも友だち同士でも批評しあったりすることって、今はとても多くなってきてると思うんですけど、なにか意見するときには、必ず代案を用意するようにして臨むと違ってきますよね。代案を探すって視点で読んでみると、自分とはまったく関係ない文章でも面白く思えてきたりしますから。

神山:それって、でも素人のうちは無理なのかもよ。ひとつの椅子を争ってるわけだから。

佐藤:でもサークルとかってそんな雰囲気ありませんでした?

神山:かつてはあったかもしれないんだけど、今はそつなくまとめてブログで発表して気がすんじゃうとかね。あとは、ひとりでも賛同者がいてブログにコメントくれただけでね、大満足なはずだから。世界中のたったひとりがレスをくれたってだけで、それを歓びに感じちゃったりするわけですよ。
プロでもブログやりはじめると、そっちに力点がいっちゃうプロの作家もいるんですけど。だから僕はプロはブログやっちゃいけない派なんですよ。

冲方:きりないですよね。向こうは、どんどん要求してきますしね。最近では、まあ、広告的な意味合いになってきてるんじゃないかと思いますが。

神山:プロだったら、せいぜいそっちだよね。やっぱり安易にクリエイト行為をしてしまうのはいけないと思うんです。誰かがお金を出して商品化してくれる、っていうフィルターを超えなくても カタチになってしまうから、カラダが楽しようとしちゃう。

佐藤:企画を持ち込んでも商品化なんてされない、なんてこといっぱいありますしね。

神山:しかも、最後にはお金を払ってくれるお客さんっていうフィルターも突破しなきゃいけないわけでしょ。

佐藤:そこでまた大きなダメ出しがやってきますからね。

神山:プロは、あらゆるダメだしに耐えて発表していくっていうっていうことに、カラダを馴らさなきゃいけないんですよ。だって、あれ、同じことガリ版でやってみなさいよ(笑)。ブログだと自分でやらなくても、ある程度きれいにデザインされちゃってるからいいようなものの…!

佐藤:ガリ版っていうか、僕、むかし同人誌やってたから、ちょっとわかるんですけど、あれにはあれでちょっとヤった感はありましたね。

神山:そうそう。だって、ネット以前だったら、最終的に多くの人に見てもらおうと思ったら、必ずそこにフィジカルな動きが必要なってきてたでしょ。ネットには、そういうフィルターがなんにもないんだもんね。

佐藤:そうだ、確かに、重たい荷物搬入したりしなきゃならなかった(笑)。

どれだけ書き終えられているか/受賞したぜー!っていうので目的が達成されちゃうのは/大賞賞金 7000円でどうだ!!!

冲方:ここまでの話をまとめると、要するに、ガガガ文庫にはなんちゃってクリエイターは来るな、と(笑)。どんどん敷居が高くなってるような…。

神山:いや、なんちゃってでもいいんですけどね、そこにオリジナリティがあれば。オリジナルっていうのも 2種類あって、奇跡的に誰も発見してないものを見つけちゃうビギナーズラックか、もしくは、模倣に模倣を重ねた上で浮かび上がってる作家性か。そのどちらかしかないんですよ。ブログでおもしろいこと書いて、それがそのまま本になりましたというタイプだとすると、それだけでは長続きしないから、その後はやっぱり素振りか、もしくは毎回すごい発明をくり返すしかないだよね。
でもそれ、例えば30年生きてた人間… 主婦とかが、それまで密かに思ってきたことをポロッと出したから面白かった、ということだったりするわけでしょう。しかしですね、2作目はその数ヶ月後に書かなきゃいけないわけですよ。30年分の蓄積があったから成立していたものを、次は数ヶ月のもので書かなきゃいけなかったりするんですよね。

佐藤:デビューしちゃったら早いですからね(笑)。どんどん尻叩かれて、巻き込まれていきますから。もうプロになってしまったが最後、悩んでる暇はなくなります。だから、ほんとデビューするまでに腐るほど悩んでおいた方が良い、というのは言えますね。自分の問題をできるだけ客観視しておいた方が良い。

冲方:そういう優等生な新人さんばかりだったら、編集者は楽で楽でしょうがない、とは思います。

佐藤:素振りは大切ですよね。僕、小学校の頃が人生で 1番本読んでいた時期なんですよ。1日1冊とかルールを決めていて。別に難しい本を読んでいたわけではないんだけど、その頃の蓄積が今の自分を助けてくれているってすごく感じる。

神山:そういう時間をどれだけ持ててたかっていうのも重要ですよね。社会人になっちゃうと、もうまったく自分の時間はなくなると思った方が良い。本もそうだし、音楽とかもね、ちょっとギター弾いてみようかなーなんて思ってもできませんからね。そういう無駄な時間がいかに重要か…! ほんと学生の頃にしかできなかったりすることだから、こういう、賞に応募しよう、みたいなのもどんどんやった方が良い。それでデビューするんだ、とかあんまり思い詰めた感じにじゃなくて、ちょっと書いて送ってみようかな、みたいなのでも全然いいと思う。ちょっとした課題だと思って、5つの賞に出してみよう、とかね。出すこと自体が目的でいいと思うんだよ。大体、こういうので賞とる人はすごい人なんだけど、もちろんすごいから賞とるんだけど、でも思い詰め過ぎてる人ってそこが到達点になっちゃってる気がするの。

冲方:受賞したぜー!っていうので目的が達成されちゃうのは、すでに終わってますからね(笑)。

佐藤:入り口かと思ったら出口になっちゃうんだ(笑)。アニメーション業界にしても I.G.であったり憧れのプロダクションに入ることで、もう満足しちゃうとかってあるって聞きますもんね。

神山:そうなの。だから、目標はもっと先に設定してないといけないんだよ。賞をあげる方もそれははじめから教えておかなければならないことだよね。

佐藤:おお。

神山:なので、あのー、これは小学館さんにお願いしたいのですが、これが到達点ではないんだということを知らしめてほしいんです。というわけで… つまり… 賞金を7000円にしてほしい!

一同:(大爆笑)。

冲方:わかった! デビュー後にもう1作出したら賞金が払われる、とか!

神山:だって、100万円とかやっちゃったらもう書かないよ!

佐藤:あー僕も最初のギャラ5000円だったしなあ。

神山:物語を生み出す力が弱くなってたりとか、フィニッシュする勢いがなくなってたりとか、そーゆーことがあるんだとしたら、その練習のために賞の締切を使えば良いんだよ。

佐藤:脚本なんかでも、今までに何本も書いてるんだけど、書き終えたのはこれが初めてで〜みたいなことを言ってる人がよくいるんだけど。

冲方:ちょ(笑)なんだそれ!? 書き終えてないのに書いた、とか言っちゃうの??

神山:ああ、でも、僕にもその経験はありますよ。未完の脚本なんて山ほどあるんです。素人の頃だから許されるんですけど、なんだかえらい壮大な物語を思い描いちゃって(笑)。100P書いてもまだ完結しない、みたいな。
そういうのである程度の基礎体力をつくっておくのも良いかもしれないけど、さらにフィニッシュ経験をどれだけ積めるかっていうのは確かに大事かも。賞って完成してないものは受け付けてないし、なので、終わらせるための方便として賞を利用すればいいよね。
こういう賞は、抱え込むための良い新人を発掘しようっていうだけじゃなくて、なにかをクリエイトしたいっていう潜在意識を持っている人たちを刺激して、底辺を拡大するためにあると考えてもいいよね。

佐藤:プロとして続けていくには、絶対的に体力、フィジカルの強度が必要になってくるんですけど、それって、どれだけそれまでに書き終えられているかっていうのが、大きく影響してると思うんですよ。なので、とにかくフィニッシュしてほしいですね。話は、それからです。

以下、次へ続く!

冲方丁冲方丁
1977年2月14日生まれ。岐阜県出身。96年『黒い季節』で第1回スニーカー大賞・金賞を受賞し、デビュー。『マルドゥック・スクランブル』(ハヤカワ文庫JA)で第24回日本SF大賞を受賞。小説執筆のほか、アニメ、ゲームのシナリオ企画、漫画原作などの分野でも活動中。

神山健治神山健治
1966年3月20日生まれ。埼玉県出身。85年スタジオ風雅に入社。『アキラ』『魔女の宅急便』等に背景として参加。96年、プロダクションI.Gにて押井守が主催した押井塾に参加後、『人狼』演出『BLOOD』脚本『攻殻機動隊S.A.C』『S.A.C2ndGIG』でシリーズ構成と監督を勤める。現在は『攻殻機動隊S.A.C/SOLID STATE SOCIETY』『精霊の守り人』を制作中。



itunes podcast itunes podcast
iTunes Store 経由で簡単番組登録!ポッドキャスト対応ソフト(ex.iTunes)に
バナーをドラック&ドロップ。番組登録完了!

2006年05月27日

!!!!

このエントリーのトラックバックURL:
http://ga3.gagaga-lululu.jp/mt/mt-tb.cgi/22

!!!!

>>すべてはガガガトークから始まった? [ 小学館::ガガガ文庫:ガガガ編集部ログ ]

2006年05月29日 13:58
GAGAGAWIREの看板番組「ガガガトーク」。 実は、この鼎談企画、「ガガガ文...

>>冲方丁氏対談 [ BLLOGG-WHITETIGER別館 ]

2006年05月29日 13:53
 私的にはシュヴァリエで知っていた冲方丁氏ですが、氏の対談サイトがあるとのことで見にいってみました。  作家さんの話というのはなかなか聞けるもの...